Molly Moynahan

数ページごとに泣かずにはいられなかった。
なぜかは分からない。
私は愛する人を殺されたこともないし、そもそも主人公と同じくらい強い確信をもって誰かを愛したことがあるのかも怪しい。
それでも主人公アリスの痛みが身近に感じられるのは、アリスがごく平凡な高校生だからだと思う。
とても平凡ですごく愛されていてこの上なく幸せな女の子が主人公だから、後ろめたい気持ちを持つことなく泣けるのかもしれない。

殺人や愛する人との死別の悲しみや苦しみ、友人のいない孤独や友情や両親の不和や浮気や家出という日常的なテーマを書くのはとても難しいと思う。そうしたテーマはありふれていて、真剣に書こうとするほど馬鹿げてしまいやすい。けれど、この作品には平凡で日常的なことがらしか書いていないのに、退屈する部分がまるでない。
ひとつには、現代アメリカ的な細部の描写がおもしろいのだと思う。ごく一般的なアメリカのお嬢さま学校で、どんな子がどんなしゃべり方をしてどんな格好をして、どんな音楽を聴くのか、興味がある。書評では「驚くべきリアリズム」となっているけれど、現実的だからよいというものでもないし、もったいぶったところのない可不足のない「リアルリズム」というのは、まぎれもなく作家の作りだした「セット（背景）」なのだと思う。この小説ではとても背景が優れている。
もうひとつ優れているのは、死者であるマシューが決して語らないところだ。アリスという人物の視点を貫くことによって、物語をより純粋なかたちにできたと思う。これはあくまでアリスの話であって、他の人が入る余地は全くない。単純な美談というわけではないのだけど、読者は余計な推察をせずにアリスの物語に没頭できる。

ラストは陳腐に思えたけど、アメリカでは一般的なことなのかもしれない。

10冊読んでも本当によいと思える本は1冊くらいしかない。
この本はそうした数少ない本のうちの1冊だと思う。… (altro)